株式会社幸工務店

わがまちの浸水リスクを、昔の川と土地の成り立ちから考える

――線状降水帯による浸水被害をきっかけに、建築士の僕が見てほしい地図

線状降水帯による大雨で、住宅や街が水につかる。そうした被害のニュースに接するたびに、建築に携わる者として気になることがあります。

建物が立っている土地を、僕たちはどこまで知っているだろうか。

もう一つ、この記事を書こうと思ったきっかけがあります。

このサイトで2017年に書いた「■福山市の活断層」が、今も多くの方に読まれています。週によっては、トップページよりも多く見られているほどです。

自分が暮らすまちは、どんな土地なのか。住んでいる場所の安全を、どう確かめればいいのか。この記事が長く読まれていることから、そうした関心を持つ方は少なくないのだと感じています。

今回は、水と土地の関係を考えてみたいと思います。

普段、車で走っていると平らに見える街にも、少し高いところと低いところがあります。今は道路や住宅が並んでいる場所が、昔は川や湿地だったこともあります。

国土地理院の地図で福山の周辺を見ていたとき、目に留まったのは、あちこちに蛇行する昔の川の跡でした。

これは、みなさんにも一度、ご自分の住んでいるエリアを見てほしい。

福山を例に、わがまちの成り立ちと浸水リスクを読み解く地図を紹介します。

いつもの街に、昔の川が見えてくる

使うのは、国土地理院の「治水地形分類図」です。

少し難しい名前ですが、土地がどのようにできたのかを、色や模様で示した地図です。福山市の芦田川周辺も見ることができます。この地図は、国が管理する主な川の周辺を対象に作られているため、お住まいの地域によっては表示されないこともあります。

普通の地図では道路や建物に目が向きますが、この地図では、その下にある土地の成り立ちが見えてきます。

福山市神辺町〜駅家町、芦田川の蛇行部(地理院地図・標準地図)。出典:国土地理院ウェブサイト
同じ範囲に治水地形分類図(更新版)と陰影起伏図を重ねたもの。青いしま模様が旧河道、緑が後背湿地、黄色が微高地。出典:国土地理院ウェブサイトの地図を加工して作成

最初は、次の4つに注目してみてください。

同じ平地に見えても、でき方は違います。国土地理院は、旧河道や後背湿地(解説ページでは「後背低地・湿地」と書かれています)について、水はけが悪く、河川の氾濫で周囲より長く浸水する傾向を説明しています。

出典:国土地理院「地形分類

ただし、この色なら安全、この色なら危険、と単純に分けられる地図ではありません。まずは「ここは、こういう成り立ちの土地なんだ」と知るために見てください。

昔の川は、今の水の流れにも関係する?

地図に描かれた旧河道を見て、僕は「大雨のとき、ここがまた水の通り道になることもあるのでは」と思いました。

この見方には、根拠があります。国土交通省の資料でも、旧河道は浸水時に氾濫水の流れる経路になることがあると説明されています。

出典:国土交通省「土地履歴調査の利活用事例集」(PDF)

もちろん、昔の川がそのまま元に戻る、という話ではありません。

今は盛土がされているかもしれませんし、堤防や道路、排水施設もあります。現在の条件を確認せず、昔の川筋だけで個々の家の浸水を予測することはできません。

それでも、普段の街並みを眺めているだけでは気づかなかったことに、地図が気づかせてくれます。

「川から離れているか」だけでなく、「このあたりは、どんな土地なのか」。

住まいの周囲を見る視点が、一つ増えると思います。

昔の地図と並べると、福山の見え方が変わる

もう一つ、紹介したいのが「今昔マップ」です。昔の地形図と現在の地図を、並べて見られます。「岡山・福山編」を選ぶと、福山周辺も比較できます。

今昔マップ on the web

左:大正14年修正の地形図(1/25000「新市」・昭和3年発行) 右:現在の地図。同じ範囲。出典:今昔マップ on the web(埼玉大学 谷謙二研究室)。地形図は国土地理院

この比較では、川筋や集落、道路の変化をたどれます。さらに海側へ地図を動かすと、海岸線の変化も見えてきます。

年代を切り替えて海岸線をたどると、陸地の広がりや土地利用の変化が見えてきます。今の街の姿が、ずっと昔から同じだったわけではないことが分かります。

ここで気をつけたいのは、「昔は海だったから、今は危険だ」と飛躍しないことです。現在の高さや整備の状況も、あわせて見る必要があります。

また、古い地図には位置のずれがあり、表示されている年代についても注意が必要です。自宅の敷地境界まで正確に重なるものとして扱わず、周辺の変化を読み取るために使ってください。

出典:今昔マップ「使用上の注意

今の高さを見る。土地の成り立ちを見る。そして、昔の姿も見てみる。

それぞれを照らし合わせると、一枚の地図だけでは分かりにくかったことが見えてきます。

建物と、その周りを一緒に考える

建築士として、この地図から考えたいのは、土地と建物の関係です。

敷地は道路より高いのか、低いのか。家の床は、地面からどのくらい上がっているのか。家から避難先までの道は、どこを通るのか。

地図で土地の特徴を知ったあとに、こうした具体的なことを確かめると、情報が自分の暮らしにつながってきます。

ただ、地形分類図が教えてくれるのは土地の特徴です。想定される浸水の深さや避難先については、自治体のハザードマップも確認してください。

福山市は、災害に応じたハザードマップを公開し、避難経路や緊急避難場所を事前に確認するよう案内しています。

福山市「ハザードマップ

昔の地図で関心を持ち、今のハザードマップで備えを考える。そこまでつながると、この地図を見る意味があると思います。

まず、ご自宅の場所を一つ見てみてください

全部の地図を使いこなす必要はありません。次の順番で、ご自宅の周りから見てみてください。

1. 土地の成り立ちを見る

地理院地図でご自宅の周辺を表示し、「治水地形分類図」を重ねます。色だけで判断せず、凡例の模様と分類名を確かめてください。

地理院地図

2. 昔と今を比べる

今昔マップの「岡山・福山編」で、同じ場所の昔と今を並べます。川や海岸線、集落の位置に注目してみてください。

今昔マップ

3. 今の想定と避難先を確認する

福山市のハザードマップで、自宅周辺の想定浸水深や避難先、そこへ向かう経路を確認します。

福山市のハザードマップ

これは、大雨が来る前の、落ち着いているときにしておきたい確認です。

昔の川が見つかるかもしれません。いつもの道が、周りより少し高いところを通っていると気づくかもしれません。

僕が地図を見て面白いと思ったのは、見慣れた街に、知らなかった一面があったことでした。

まずは、ご自分の住んでいる場所を一つ。そして、分かったことを、ご家族とも話してみてください。

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